ネイルサロン市場は、美容意識の高まりを背景に拡大を続けています。
ホットペッパービューティーアカデミーによると、市場規模は過去5年間で最高となる1,455億円(前年比4.7%増)に達しました。
1回あたりの平均利用金額は6,270円と、5年で最も高い水準となり、年間利用回数も6.07回と増加しています。特に、年12回以上利用する高頻度層が増えており、ネイルを継続的に楽しむ顧客が増えています。
参考:美容センサス2025年上期(ネイルサロン編)|ホットペッパービューティーアカデミー
この背景には、物価高の影響がありながらも、ネイルが単なる身だしなみではなく、時間とお金をかけて楽しむご褒美のようなサービスとして選ばれていることが考えられます。利用金額、利用頻度、サロン滞在時間のすべてが伸びている点からも、いわゆるロイヤルユーザー化が進んでいる状況がうかがえます。
一方で、現場では「忙しいのに儲からない」と感じているネイルサロンが少なくありません。市場が伸びているからこそ、なぜ利益が残らないのか。その理由を解説していきます。
ネイルサロンが儲からないと言われる4つの理由

ネイルサロンが儲からないと言われる主な原因は以下の4つです。
- 施術単価が上がらず収益が伸びにくい
- 他店との差別化が難しく、価格競争になりやすい
- 施術時間が長く、1日の対応人数に限界がある
- 材料費や消耗品のコストが意外と高い
それぞれ詳しく解説していきます。
施術単価が上がらず収益が伸びにくい
ネイルサロンが忙しいにもかかわらず儲からない理由として、施術単価に限界があるという点が上げられます。
ネイルはサービス内容やデザイン、使用する材料によって価格差はあるものの、相場から大きく外れた価格設定は現実的ではないためです。高単価に設定すれば新規予約が入りにくくなり、反対に単価を下げれば売上は確保できても利益が残りません。
結果として、多くのサロンが相場の範囲内で価格を設定せざるを得ず、単価そのものを大きく引き上げることが難しくなっています。美容業界全体で見ても、ネイルは比較的施術単価が低い分野に位置づけられています。参考として、一般的な平均単価の目安は以下の通りです。
- エステサロン 7,946円
- 美容室 7,668円
- ネイルサロン 6,270円
参考:美容センサス2025年上期≪ネイルサロン編≫|ホットペッパービューティーアカデミー
そのため、他業種と比較して売上規模や利益額に差が生じやすくなります。単価に限界がある分、売上を確保するためには1日に複数の顧客に対応する必要があります。
しかし、ネイル施術は工程が多く、一定の時間を要する作業です。時間的制約により対応人数が増やせず、結果として収益が伸びにくくなるケースも少なくありません。
このような背景から、ネイルサロンでは単純な価格設定の見直しだけでなく、施術時間、メニュー構成、1件あたりの利益をどのように確保するかが重要な検討ポイントとなります。
他店との差別化が難しく、価格競争になりやすい
お客さまがネイルサロンを選ぶ際、サロンがどのような商材を使っているのか、どれほど丁寧なケアを行っているのかといった施術の中身に関わる価値は、そのままではお客さまに伝わりません。
実際にはこだわりを持って運営していても、それが見える形になっていなければ、選択の判断材料にはなりにくいのが現実です。
そのため、お店の強みを明確に伝え、「このお店でネイルをしたい」と思ってもらえるかが重要になります。
- 最新ネイルをいち早く取り入れているサロン
- 育爪にこだわったサロン
- ネイルケアにこだわったサロン(大会受賞者がいるなど)
- アセトンを使わずにフィルインにこだわっている
など、他店との差別化をアピールすると良いでしょう。
近年のネイル市場では、Y2Kブーム(2000年前後に流行したファッションやメイク)を受けてデコラティブ(装飾的)なデザインが人気を集めています。
代表的なデザインとしては、以下のようなスタイルが挙げられます。
①バレエコア
韓国発祥のバレリーナの衣装のようなチュールやサテンリボンなどを取り入れたデザイン。
②ベイビーブーマ
肌色に近いピンクベージュをベースに爪先に向かって白くグラデーションを付けるデザイン。フレンチネイルよりも柔らかく、自然な印象を与える。
こうした動向から、今後のネイル市場では、かわいらしさを前面に出したデザインと、柔らかくナチュラルなデザインを好む層に分かれていく傾向が見られます。
こうした施術のこだわりやお店の強みは、適切に発信されてはじめてお客さまに伝わります。
しかし、ホームページやSNSでの情報発信が十分でない場合、お客さまが比較できる要素は限られます。その結果、最も分かりやすい料金だけでサロンを判断せざるを得ない状況が生まれます。
この状態が続くと、価格が比較の中心となり、値下げやクーポンによる集客に頼りやすくなります。これが、ネイルサロンが価格競争に巻き込まれやすい根本的な要因の一つです。

施術時間が長く、1日の対応人数に限界がある
ネイル施術は工程が多く、内容によって所要時間に大きな差が出ます。実際のデータを見ると、時間が売上の上限を決めていることが分かります。
ネイル施術にかかる平均時間
ホットペッパービューティーアカデミーの調査によると、ネイルサロン利用にかかった平均時間は75分とされています。ただし、実際の現場では施術内容によって時間は大きく変わります。
- ネイルオフなし(シンプルデザイン):約60分
- デザイン・装飾あり:約90分
- ネイルオフあり:上記に+30分
- 長さ出しあり:上記に+30分
内容によって、施術時間は短くても60分、長い場合は150分程度になります。
参考:美容センサス2025年上期≪ネイルサロン編≫|ホットペッパービューティーアカデミー
施術時間+準備時間を含めた実働時間
施術そのものだけではなく、次のお客さまを迎えるための準備時間も必要です。そのため実働時間は次のようになります。
| 施術内容 | 施術時間 | 準備含む実働時間 |
|---|---|---|
| シンプル施術 | 60分 | 約70分 |
| フルデザイン・オフ・長さ出し | 150分 | 約160分 |
1日8時間勤務の場合の対応人数目安
1日8時間勤務した場合、対応できる人数は限られて来ます。
- 施術時間が短い日:約6人前後
- 施術時間が長い日:約3人前後
予約が埋まっていても、これ以上人数を増やすことは現実的ではありません。このように、施術時間そのものが売上の上限を決めてしまうのが、ネイルサロンの大きな特徴です。
施術時間が長くなるほど、売上は「単価×人数」ではなく、「時間×体力」になります。この点を理解せずに予約数だけを追いかけると、忙しさだけが増えていく結果になりがちです。
材料費や消耗品のコストが意外と高い
ネイルサロンの利益を圧迫しやすい要因として、材料費や消耗品コストは見落とされがちです。
一つひとつは少額でも、施術ごとに必ず発生するため、積み重なることで利益に大きな影響を与えます。
ネイル施術で発生するコストは、大きく分けると「材料費」と「消耗品」に分けて考えることができます。
主な材料費の例
- ジェル、カラー、トップ・ベースジェル
- ラメ、ストーン、パーツ類
- アクリル、チップ、長さ出し用商材
- デザイン用の専用商材(ミラー、マグネットなど)
これらはデザイン内容によって使用量が変わりやすく、装飾の多いメニューほど原価が上がりやすい傾向があります。
主な消耗品コストの例
- ファイル、バッファー
- ワイプ、コットン、ペーパー類
- グローブ、マスク
- 消毒液、除菌用品
- アセトン、アルミ、ラップ類
消耗品は1回あたりの単価は低くても、施術のたびに必ず使用されるため、施術数が増えるほど確実にコストが積み上がります。
特に注意したいのは、材料費と消耗品をまとめて「なんとなく経費」として扱ってしまうことです。この状態では、どのメニューでどれだけ利益が残っているのかが把握しにくくなります。

思うように利益が出ないネイルサロンの改善ポイント

利益が伸び悩んでるネイルサロン向けに、まずチェックすべき項目を解説します。
利益が残るかどうかは、どの数字を見れば判断できるのでしょうか。その指標の一つが 損益分岐点比率です。
損益分岐点比率とは、粗利益のうち、どれだけが固定費の支払いに使われているかを示す数値です。計算式は以下のとおりです。
損益分岐点比率(%)= 固定費 ÷ 粗利益 × 100
粗利益= 売上 − 材料費などの変動費
固定費= 家賃・光熱費・通信費・人件費(個人サロンの場合は報酬も含める)
例として、売上50万円・材料費5万円・固定費40万円の場合、損益分岐点比率は 約88.9% になります。この水準では、売上が少し下がるだけで赤字に近づきやすく、忙しさのわりにお金が残らない状態になりがちです。
| 60%未満 | 非常に安定 |
|---|---|
| 60〜80% | 利益が残りやすい |
| 81〜90% | 余裕が少ない |
| 91%以上 | 損益ギリギリ |
損益分岐点比率を下げるために、優先して見直したいポイントは次の4つです。
- まず優先して見直すべきは客単価
- メニュー数を絞って回転率と利益率を向上
- リピート率を可視化して安定した利益につなげる
- 原価率と施術時間を揃えて1件あたりの利益を最大化
それぞれ詳しく解説していきます。
まず優先して見直すべきは客単価
最初に見直したいのが、客単価です。対応人数に限界があるネイルサロンでは、1件あたりの売上が低いままでは、忙しく働いても利益は伸びにくくなります。
ここで誤解されやすいのが、客単価を上げる=メニューの値上げという考え方です。実際には、必ずしも価格改定だけが方法ではありません。
例えば、オプションメニューやセット化によって、お客さまが自然に追加しやすい構成を作ることで、単価は無理なく上げることができます。
また、施術時間や原価に対して単価が見合っていないメニューがある場合、内容の整理や提供方法の見直しによって、価格を変えずに利益率を改善できるケースもあります。
重要なのは、「この施術は、この時間とコストに対して、十分な売上になっているか」という視点で客単価を見ることです。値上げを検討する前に、まずは現在の単価を整理することが、現実的な第一歩になります。
メニュー数を絞って回転率と利益率を向上
メニュー数が多いほど、お客さまの選択肢は増えますが、その分サロン側の負担も大きくなります。
使用する商材が増え、施術時間にばらつきが出やすくなり、結果として回転率や利益率が下がるケースは少なくありません。
特に、施術時間が長いわりに単価や利益が低いメニューが混在していると、忙しさに対して利益が残りにくくなります。
すべての要望に応えようとするのではなく、利益が出やすいメニューを軸に構成を見直すことで、施術の流れが安定し、時間ロスも減らしやすくなります。メニューを絞ることは、提供価値を下げることではありません。
むしろ、強みとなる施術に集中することで、回転率と1件あたりの利益の両方を改善しやすくなります。
リピート率を可視化して安定した利益につなげる
ネイルサロンの売上を安定させるうえで重要なのが、リピート率の把握です。
新規予約が継続的に入っていても、再来につながっていなければ、集客コストや値引きに依存しやすくなり、利益は残りにくくなります。
リピート率は感覚ではなく数字で確認することが大切です。一定期間内に再来店している割合を把握することで、今のサービスや価格設定が継続利用につながっているかを客観的に判断できます。数字として見えるようになると、改善すべきポイントも明確になります。
リピート率が高まるほど、予約は安定しやすくなり、無理な割引や広告費をかけずに集客が可能になります。その結果、売上の波が小さくなり、利益が残りやすい経営につながります。
原価率と施術時間を揃えて1件あたりの利益を最大化
1件あたりの利益を安定して確保するためには、原価率と施術時間を感覚ではなく数字で揃えていく必要があります。その際に欠かせないのが、ITを活用した仕組み化です。
多くのネイルサロンでは、売上は把握していても、メニューごとの材料費や施術時間、実際に残る利益まで細かく管理できていないケースが少なくありません。こうした管理を紙や記憶に頼っている限り、改善には限界があります。
予約システムやPOS、簡単な管理ツールを使い、メニューごとに売上・原価・施術時間を可視化することで、どの施術が利益を生み、どこに時間を使いすぎているのかが明確になります。数字で把握できれば、感覚に頼らず、利益が残るメニューを設計することが可能になります。
また、ITによる仕組み化は、作業を減らすためだけのものではありません。判断を早くし、無駄な施術や非効率なメニューに時間を使わないための土台になります。
結果として、忙しさを増やさずに1件あたりの利益を最大化しやすくなります。
ネイルサロンの「忙しいのに儲からない」を変えるサロエボ

サロエボは、これまでバラバラに管理されがちだった経営・接客・販促といったサロン業務を一元管理できる、サロンに特化したPOSシステムです。
売上や予約数だけでなく、利益に直結する情報をまとめて把握できる点が特徴です。
売上管理では、日別・月別の集計や分析に加え、スタッフ別の実績管理も可能です。施術内容や商品別の売上を確認できるため、どのメニューが利益につながっているのかを数字で判断しやすくなります。
顧客管理やカルテ管理も一体化されており、手書き対応が必要だった電子カルテや同意書もシステム上で管理できます。
過去の来店履歴や施術内容が整理されることで、対応の属人化を防ぎやすくなります。
また、来店頻度や利用メニュー、再来店状況といったデータを、スタッフ別・サロン別に分析できるため、お客さまの傾向を把握しやすくなります。これまで時間がかかっていた集計や確認作業を効率化し、改善施策や販促の判断にすぐ活かせる点も大きなメリットです。
サロエボは、業務を楽にするためだけのツールではありません。
数字を一元管理する仕組みを導入することで、勘に頼ることなく、利益につながる適切な判断ができるようになります。
まとめ
ネイルサロンで利益が残らない理由は、決して一つではありません。
施術単価や時間、材料費、価格の付け方など、日々の運営の中にある小さなズレが重なり、結果として忙しさばかりが増えていきます。どれか一つだけを直しても、他がそのままだと、改善した実感は得にくくなります。
重要なのは、感覚や経験だけに頼らず、数字で現状を把握することです。損益分岐点比率を確認し、客単価・メニュー構成・リピート率・原価と時間の関係を整理することで、サロンがどこで無理をしているのかが見えてきます。
また、こうした見直しを継続的に行うためには、ITを活用した仕組みづくりが欠かせません。売上や顧客情報、施術内容を一元管理することで、属人的な判断を減らし、安定して利益が残る経営に近づけます。
まずは、今の数字を把握することから始めてみてください。客単価や施術時間、原価を整理し、小さな改善を積み重ね、「忙しさ」と「利益」が結びつくサロン運営を実現しましょう。
